R2年 小学生クラス説明会

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園長からのメッセージ

シリーズ20 2016年1月発信


ウィリアム王子、モンテッソーリ・スクール入園

昨年の暮れにうれしいニュースが飛び込んできました。イギリスのウィリアム王子夫妻の長男、ジョージ王子(2歳)がこの1月からイギリス南東部ノーフォーク州のウエストエーカー・モンテッソーリスクールに入園することになったというニュースです。しかも、このウエストエーカー・モンテッソーリスクールは御覧の通りの小さな民家を改築したような施設です。立派な施設に目を向けるのではなく、教育内容に目を向けたウィリアム王子夫妻の決断がうれしいですね。

ウエストエーカーモンテッソーリスクール

「多様性」や「違い」を受け入れなければ平和は達成されない。

このグローバルな時代、「多様性」や「違い」を受け入れられるかが大きな鍵です。ほとんど単一民族で島国に暮らしている日本人は「違い」を受け入れることが苦手です。どうしても横並びで、枠からはみ出さないこと、なるべく目立たないことを良しとしてしいました。しかし、時代の要求は別なものを要求しているようです。

モンテッソーリ教育現場では子ども達は幼児期から様々な「違い」を経験します。異年齢で縦割りの集団は一人ひとりの体格の違いや、能力の違いを。自由選択による活動は同じことを同じ時間枠でやらされる集団画一ではない、動機付けは自分にある活動の場を提供し、そこには同じ時間に様々な違う活動が展開していきます。国の大きさの違い、使っているお金の違い、人種の違い、国旗の違いなどなどこの世界に存在する多様性が子ども達の活動の対象となります。

日本ではまだ成果主義、一本道の考えが強く存在します。一本道とは規定のコースを走り、すべて正しくやれば あとの人生は安泰という考えです。 私達の多くはいまだにこの考えに囚われており、教育の目的は偏差値の少しでも高い大学に入り、安定した会社に就職することと思い込んでいます。しかし、この世界は多様性で満ち溢れています。モンテッソーリ教育では異年齢縦割りを推奨し、早くできるようになることを目指すのではなく、それぞれのペースでできるようになることを援助します。これは成果主義ではありません。人生は一本道ではなく もっと絡み合っているはずです。 私達は自分の才能を追求する中で、成長の助けとなる周囲のものと 共生的に生きています。 人間社会は才能の多様性によって成り立っています。一部の単一の能力によってでは決してありません。なるべく広い視野に立って、多角的に物事をとらえる姿勢こそが身に付かなければならない時代であり、その姿勢を持った人間によって初めて平和はもたらされるでしょう。

「答えが一つではない」時代

もう一点は、「答えは一つではない」時代に入ってきているという事実です。市場が常に右肩上がりで急成長していた高度経済成長の時はみんなが同じ目的に向かっていたので「答えは一つ」でよかったのかもしれません。しかし、現代は答えが簡単には見つからない時代になりました。見る角度によって答えはガラッと変わってくる時代です。今の時代の複雑化する課題に向き合っていくためには自分とは違う価値観を受け入れ、自分で考えて、決断し、実行し、それに責任を持つ生き方が求められます。

グーグルの創始者セルゲイ・ブリンとラリー・ページによる検索エンジンの開発により第4次情報革命がなされ、(ちなみに、第1次情報革命は「文字の発明」、第2次は「書籍の発明」、第3次は「活版印刷の発明」)IT時代がやってきました。

瞬時に世界中の出来事や情報が居ながらにしてスマホ一つで検索できる時代です。情報は満ち溢れています。しかし、私達はせっかくの宝であるはずの情報を自分にとって都合の良いものしか見ようとしません。

例を挙げてお話ししましょう。ユダヤ人少女アンネ・フランクによって書かれた『アンネの日記』は誰でも知っている書物です。世界の70以上の言語に翻訳されています。この1冊の日記が世界に大きな影響を与えています。

第2次世界大戦が終わってから、国家をもっていなかったユダヤ人達は「自分達の国を持ちたい」という要望を国連に求め、それが受け入れられてアラブ人が多く居住するパレスチナの地にイスラエルを建国します。イスラエル建国に反対する周辺のアラブ諸国と何回もの戦争(中東戦争)を経て、イスラエルは国連が採択したパレスチナの一部だけでなく、パレスチナ全域を占領して国としました。当然アラブ諸国は猛反発し、中東問題は今でもこじれにこじれています。

しかし、アメリカをはじめとしたアラブ諸国以外の国際社会はイスラエルに対してあまり強い態度をとろうとしません。なぜでしょうか?それは、ユダヤ人が第2次世界大戦中にナチスドイツによって600万人以上もの犠牲者を出したことを知っているからです。その象徴がアンネ・フランクであり、『アンネの日記』です。この日記を読むと誰もがユダヤ人であるという理由だけで命を絶たれたアンネに心を打たれ、涙します。フランク一家の隠れ家もアムステルダムに現存し、見学者も毎日長蛇の列をなしています。ドイツも戦後、国家としてこのユダヤ人迫害と面と向き合い、アウシュビッツをはじめとした強制収容所を同じ過ちを繰り返さないために残しています。

この日記を読んでしまうとイスラエルがいくら国連決議に反してパレスチナ全域を国家とするような行動に出てもなかなか強い態度には出にくくなってしまいます。

ところがです。アラビア語にも翻訳されている『アンネの日記』はアラブ諸国では読まれていないどころか、その存在すら知られていません。アラブ諸国にはイスラエルを建国したユダヤ人に対する反発があることは理解できます。しかし、問題は情報があるにもかかわらず、自分たちに都合の悪いものは自由に検索できないようにしたり、検索しようとしたりしない姿勢です。ここに多様性や違いを受け入れることの重要性が出てきます。

また、イスラエル政府によって壁で包囲されているパレスチナに住むアラブ人の中に、もしかしたらアンネと同じようにイスラエル軍の監視に怯えるつらい日々を日記に綴っている少女がいるかもしれません。

「物事を一方から見るだけではなく、多角的に見る」とはこのことです。そうすると「答えが一つではない」ことも実感できるのではないでしょうか。そこで、私達は「考えること」を初めて開始します。

大人の生き方は子どもの鑑

物事を一方からしか見ることができないと、いつも自分が被害者で、自分には非がないと思うようになります。これは独りよがりで自己中心的です。一方である自分に思いがあるように、他方にも思いがあります。これを受け入れることができるかどうかがこれからのグローバルな時代に生きる子ども達に求められているということです。

「子どもは環境を吸収して成長する」というのがモンテッソーリの主張です。様々な能力は物的環境であるモンテッソーリ教具と関わることで開花していきます。人間としての生き方、姿勢は人的環境である私達大人が吸収の対象となることを自覚しましょう。

もし、多様性や違いを受け入れる姿勢が子どもに身に付いてほしいと思うならば、自分なりに考えるようになってほしいと願うであれば、まずは大人である私達がそういう生き方をすることが何よりも大切になりますね。


追記 
本文中に登場したイギリスのウィリアム王子、グーグルの創始者セルゲイ・ブリンとラリー・ページ並びにアンネ・フランクはモンテッソーリ教育を受けて育った人物です。
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