R2年 小学生クラス説明会

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園長からのメッセージ

シリーズ9 2011年9月発信

アジアのモンテッソーリの仲間との再会

 8月12,13,14日の3日間、中国の首都北京で「モンテッソーリ・アジア」という国際大会が開催され、出席してまいりました。

全ての子どもの育ちに貢献し、世界平和を標榜するモンテッソーリ教育であるならば一つの国や地域に限定されたモンテッソーリ教育ではなく、国際的な視野に立った実践が必要となります。しかも、そこに文化的な背景を盛り込むことによってそれぞれの文化を生かした上でのモンテッソーリ教育の一層の普及が望めます。

 したがってこの国際大会の意義は「我々アジアのモンテッソーリの仲間はさまざまなことをモンテッソーリ教育の母国であるイタリアを初めとしたヨーロッパ各国や、モンテッソーリ教育の先進国であるアメリカから学んでいる。しかし、文化的な背景が異なるアジアにおいてはそれをそのままの形では適用できないケースにも当然出会う。アジアにはアジアのモンテッソーリの取り入れ方があるのではないだろうか。デジタル化され、非常に狭くなったこの世界においてグローバル化は避けられない事実であるのならば、アジアの同胞が手を取り合ってモンテッソーリの一層の普及のための組織を立ち上げる必要があるのではないだろうか。」という点にあります。欧州に目を向けますとヨーロッパにはすでに「モンテッソーリ・ヨーロッパ」という団体が立ち上がり活動を行っています。時代の流れとしては、「モンテッソーリ・アジア」が、そしてそれに引き続く形で「モンテッソーリ・アフリカ」や「モンテッソーリ・南アメリカ」がそれぞれの文化的、経済的背景を基盤として立ち上がって行くでしょう。

 こういった主旨のもと、第1回の大会は2年前の8月に台湾の台北で開催され、昨年の8月には韓国のソウルで開催されました。この大会は第1回に出席した各国の有志が中心となって毎年開催されます。長い時間を掛けてメールでのやり取りで準備を進めます。そして、この夏には北京での開催となり、600名ほどのアジア各国だけでなく、アメリカ、ロシア、イタリアからの出席もありました。

大会は現地のモンテッソーリ実践校の視察に一日。あとの二日間が各国からの講演です。私は第1回から出席し、各大会で日本のモンテッソーリ教育の紹介を初めとした講演形式での発表を重ねてまいりました。今回の北京でも「子どもの興味・関心を土台にした活動のあり方」という演題での講演を行いました。この二日間の講演はモンテッソーリ教育のみならず、最新の脳科学や、モンテッソーリと同じく環境を重視し、子どもを主体としたイタリアのレッジョ・エミリアの教育の紹介など多岐にわたります。モンテッソーリ教育を唯一絶対の教育法として崇めるのではなく、良いものをどんどん取り入れていこうとする姿勢を身に付けようという大会の目的があるからです。

第1回モンテッソーリ・アジア

2009年8月
台湾台北での講演
「日本におけるモンテッソーリ教育とアジアでの展開」
第2回モンテッソーリ・アジア

2010年8月
韓国ソウルでの講演
「現代アジアにおけるモンテッソーリ教育の役割と教員養成のあり方」
第3回モンテッソーリ・アジア

2011年8月
中国北京
パネルディスカッション
「アジア各国のモンテッソーリ教育現況」
第3回モンテッソーリ・アジア

2011年8月
中国北京での講演
「子どもの興味・関心を土台にした活動のあり方」
第3回モンテッソーリ・アジア 2011年8月 中国北京 功労賞受賞


国際大会に参加する意義

 教育に携わる者にとって必要不可欠な要素は視野の広さです。特に、島国でほとんどが同一民族である日本にとっては国際化社会の中で日本のよさを発信していくためにはこの視野の広さは欠かすことのできない要素です。一般の方はもちろん、教師養成に携わる私のような者にとってはなおさらです。モンテッソーリ教育という枠の中だけでものを考えるのではなく、現代と社会という全体の中でモンテッソーリ教育がどのような役割を果たしていくべきなのか。付け加えるべき点は何なのか。改めなければいけない点は何なのかといった視点が必要不可欠になります。こういった視点は国際的な交流や大会への参加の中で確実に育まれてくるものです。そうでなくても教育現場は閉鎖的になりがちで、子ども相手なだけに自己中心的になりがちです。また、モンテッソーリ教育の平和教育という視点に立ったときにも特にアジアの同胞と交わる中で平和を考える場もまた必要になってきます。

 モンテッソーリ教育の枠組みの中だけモンテッソーリ教育を捉えるのではなく、モンテッソーリ教育を取り巻く現状を加味して初めてモンテッソーリ教育の現代的意義が理解でき、今後何をしていかなければならないかが明確化されていきます。

大人は人的環境としての子どものモデル

モンテッソーリ教育においては「環境」が重要な役割を果たします。そのために子どもの家には何百種類ものモンテッソーリの教材類が物的環境として整備されています。環境は物的環境だけでなく、子どもを取り巻く大人である人的環境も大きな役割を果たします。乳幼児期の子どもは直接教えられて成長するよりも環境を吸収して成長していく度合いの方が高いのです。私達大人は子どもの吸収の対象であることを自覚しなければなりません。これからを生きる子ども達にグローバルな感覚を持ってもらいたいのならば、率先して私達大人が世界に出て行かなければなりません。今夏は残念ながら夏季の日程の都合上参加できませんでしたが、昨年のソウル大会には子どもの家の職員も参加いたしました。これは子どもに接する人的環境としての私達がまず視野を広めようという考えからです。

一歩日本を出てみると、日本における「当たり前」や「当然」がまったく通用しない事柄によく出会います。これは主に文化の違いからくるものです。
文化的背景の違いを見てみましょう。よい事例があります。東日本大震災の3月
11日。首都東京では300万人以上が帰宅難民になりました。何時間も掛けて徒歩で家路に着く人々、職場で一夜を明かす人もいました。混乱の中で、彼らが見せたのは暴動でもなく、商店の襲撃でもありませんでした。彼らは秩序と礼儀、尊厳を示しました。

 一方で、2005年8月ハリケーン「カトリーナ」がアメリカのニューオーリンズ地区を襲いました。何が起こったかというと、商店の襲撃、カージャック、殺人、略奪、レイプなどでした。
誤解しないでください。私は日本人がアメリカ人よりも優れていると言っているわけではありません。もちろん、日本人は品位があり、秩序正しいと言われれば私達は嬉しいですし、誇りに思います。しかし、これは誰が優れていて誰が劣っているという問題ではありません。これは文化的背景の違いに起因しています。
西洋の文化では個人に価値が置かれるのに対して、東洋(アジア)の文化では個人よりも集団、コミュニティーに価値が置かれます。別の角度から言えば、多くの西洋の国が多民族国家であるのに対して、アジアの国は基本的には単一民族国家です。
これらの人々をよく見てください。一人ひとりが何人か国籍を当ててみてください。

答は全員アメリカ人です。

アメリカでは全員がアメリカ人であったとしても当たり前として捉えられるでしょう。しかし、日本や中国、韓国、タイなどでは何人かは決して日本人や中国人、韓国人ではありえません。

教育はこういった文化的、人種的状況と大きく関連し、個よりも集団に価値が置かれ、一方通行で、一斉画一的な教育が主流となったのです。

もちろんよい点もあります。一斉教育によって和や統一性、一体感、秩序や品位が助長され、個よりも共同体意識がはぐくまれます。

そして、アジアの伝統的な教育はこのような状況の下で構築されてきたので焦点は通常知識の伝授者としての教師に置かれます。しかし、心ある教師や研究者はこういった一斉教育に長い間疑問を持ち続けていました。彼らはこういった教育だけでは停滞、形式化、子どもの自発性や個性は育ちにくいと考えました。一斉画一教育では生徒全員が教師の方を向き、教師が教室を支配します。何よりも教育現場は子どもが自ら学ぶ場であって、教師が教える場ではありません。私達はこの教師中心主義を排し、子どもに焦点を置かなければなりません。そして、その考え方こそがモンテッソーリ教育の核心の部分です。

モンテッソーリ教育の良さをお分かりいただいている方は一様に、「なぜこんなに良い教育法がもっと広まらないのだろう」という疑問をお持ちだと思います。その答のひとつが私達人的環境である大人がまだまだ伝統的教育法、つまり一斉画一的で知識の伝授者としての教師が中心となった教育法の呪縛から解放されきれていないからです。

これからの子ども達は私達が創造できない様々な事柄と出会うことでしょう。私達は私達の知っている知識だけを子ども達に伝えてもそれでは不十分なのです。子ども達には自分で考えて、行動する力、つまり問題解決能力。そして、行動したことに責任を持つ姿勢が必要です。モンテッソーリ教育ではここを子ども達が伸ばしていくのです。


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